そば屋で育ったトンカツは、山椒塩でひと口目を 富士市「たつみ庵」

 そば屋へ入ったはずなのに、目の前には230~240gの厚切りトンカツ。しかも最初のひと口には、ソースではなく山椒塩をすすめられる。富士市北松野で53年続く「たつみ庵」は、祖母が始めたそば処に、3代目の芦澤智憲さんが修業を終えて戻ったときからトンカツを加えた食事処だ。窓の向こうには富士川。昔ながらのそばと、本格的な豚肉料理が同じ献立に並んでいる。
 トンカツ目当てなら、まず「ロースカツ定食」を。使うのは宮崎県・霧島高原のSPF豚で、肉質はジューシー。脂身には甘みがあるという。衣は糖質を抑えた生パン粉。揚げ油には綿実油とコーン油を1対1で合わせ、厚い肉でも重さを残しにくいよう、軽い揚がりを目指す。火入れは、厨房だけで完結させない。油の中では8割ほどまで加熱し、皿が客席へ届いた時に中までちょうど火が入る状態を狙う。厚切り肉をやわらかく食べてもらうための計算だ。ひと口目に振る山椒塩には、麻婆豆腐にも使う山椒を使用。ふわりと立つスパイシーな香りが、豚肉の甘みを鮮明にする。その後は特製ソースをかければ、白いご飯を誘う親しみ深い味へ変わる。

ロースカツ定食(2100円)
ロースカツ定食(2100円)

 そば屋ならではの一品が「カツ煮定食」。長年使ってきたそばつゆを基本に、ご飯が進むよう味を調えている。卵は細かく溶きすぎず、カツの上へふんわりとかける。衣にだしの風味が染み、厚い豚肉には卵のまろやかさが重なる。祖母の代から続くそばの仕事と、3代目が約27~28年手掛けてきたトンカツが、ひとつの鍋で出合う料理だ。

カツ煮定食(2100円)
カツ煮定食(2100円)

 もちろん、そば処としての歩みを伝える「そば定食」も外せない。温かなかけそばに、ご飯、野菜のかき揚げ、もつ煮、漬物が付く。だしには鹿児島県産の本枯れ節とサバ節、高知県産の宗田節を使う。北海道産そば粉で打つ麺はやや太めで、田舎そばらしい素朴な味わいだ。創業時から受け継ぐもつ煮は、豚の大腸とこんにゃくだけをみそ味で煮たもの。平日の会社員から支持されているのも納得の、腹をしっかり満たす定食である。

そば定食(1450円)
そば定食(1450円)

 秋には「きのこそば」も登場する。マイタケ、シメジ、シイタケ、エノキ、エリンギの5種類を使い、温かなそばへ季節の香りを添える。

5種のきのこそば(1450円)※季節限定
5種のきのこそば(1450円)※季節限定

 厚切りカツを目当てに暖簾をくぐり、次はそばを食べに戻るのもいい。祖母が始めた店の味を大切にしながら、3代目は自ら磨いたトンカツをもう一つの柱に育てた。そば屋だからそばだけ、ではない。その意外性が、たつみ庵で何を頼むか迷う楽しさになっている。

そば屋で育ったトンカツは、山椒塩でひと口目を 富士市「たつみ庵」

たつみ庵
住所:富士市北松野4068
電話番号:0545-85-2363
定休日:月曜日、第3火曜日、不定休あり
営業時間:11:00-14:00 L.O.13:30 / 17:00-18:30 L.O. ※夜は土・日のみ、売り切れ次第終了
Pあり