法廷に響く姉の思い「弟、巌に真の自由をお与え下さい」…袴田さん再審始まる 「ねつ造」に言及…元裁判長が語る正義 /今年の静岡
今年最後の再審公判を終えた袴田巌さんの姉、ひで子さん(90)。12月23日、その姿は都内にありました。
ひで子さん「再審法改正」訴える
Q.きょうは桜井さんの…。
袴田さんの姉・ひで子さん:「そうですね偲ぶ会の。それが午後からあるものですから」
この日は1967年に茨城県で男性が殺害された、いわゆる「布川事件」で再審無罪となり、今年8月に亡くなった桜井昌司さんの追悼集会。ひで子さんは、こう訴えました。
袴田ひで子さん:「みんな、えん罪で困っている。どうぞ皆さま再審法を何とか早く改正していただきたい。お願い申し上げる」
1966年、旧清水市でみそ会社専務一家4人が殺害された事件で死刑が確定した袴田巌さん(87)。その再審、やり直しの裁判が、逮捕から57年経った今年10月27日、静岡地裁でようやく始まりました。
最初に再審を認めた村山元裁判長「こんなにかかると思わなかった」
村山浩昭元裁判長:「まずは、ようやく再審公判になって良かったということですね。9年かかっているわけなんですけども、正直言ってこんなに長くかかるとは思っていなかった」
こう話すのは、2014年静岡地裁で、再審を最初に認めた村山浩昭元裁判長です。
「これ以上拘置を続けることは、耐えがたいほど正義に反する」
再審開始決定と同時に村山元裁判長は袴田さんの釈放も決めました。
村山元裁判長:「5点の衣類について、(2014年の)静岡地裁の決定では捜査機関の捏造の疑いがあると判断しているわけなんですよね。そうすると、単に人間違いとかという問題ではなく、疑いというのは国家機関によって罪に陥れられて、しかも死刑になったということを意味しています。普通に考えても、許されないんじゃないでしょうか」
5点の衣類とは、袴田さんが犯行時に着ていたとされ、有罪判決の最大の決め手となった証拠です。事件から1年2カ月後に、現場近くのみそタンクの中から見つかり、衣類の所々に血が付着しています。この血の色こそが、この再審で最大の争点となっているのです。
弁護側は「1年2カ月もみそにつかった状態なら血痕の赤みは消える。捜査機関がねつ造したもの」と主張。一方、検察側は同僚の証言などから袴田さんの犯行着衣だとした上で、「長期間みそにつかっても血痕の赤みは残る。捏造はありえない」と反論。激しく対立しています。
再審で重要なポイントは、5点の衣類は捜査機関が「ねつ造」したのか、そうでないのかです。
「ねつ造は避けて通れなかった」
再審開始決定でねつ造の疑いに言及した村山元裁判長は-。
村山元裁判長:「いかにも袴田さんの衣類ですよね。だから本当の証拠と思われた。だけども、それが違うんだってなったときに、偶然ということがあるんでしょうか。そこはもう論理的な推論として、(ねつ造が)成り立ってしまうのじゃないかと思いますね。そのことが、やはり開始決定とともに拘置を停止して釈放するということに結びついている一つの理由にもなっている。そういう正義。(ねつ造は)避けては通れなかった」
法廷に響く姉の思い
袴田さんの再審は、静岡地裁が一度は認めたものの、検察官の不服申し立てを受け、2018年に取り消されています。再審をめぐる制度上の不備もたびたび指摘されています。村山元裁判長は退官後、弁護士として再審法改正問題に取り組んでいます。
村山元裁判長:「(袴田事件は)単なる誤判というだけでは済まされないものがあって、それを深刻に反省しない限り、刑事裁判の質が上がらないし、もしくは真剣な反省の上にたって制度改革ということに話が進まないのではないかと思います。それは日本の刑事司法界全体が負うべき責任」
10月27日静岡地裁の202号法廷。弟の無実を信じ続け闘ってきた、姉の思いが響きました。
「弟、巌に真の自由をお与え下さい」