【密着】800年以上の歴史で初めてのお引越し…険しい坂の上から重さ200㎏の金剛力士像を「人力」でどうおろす 静岡市

 存在感のある精工なつくり。力強さを感じさせる、そのまなざし。静岡市清水区の霊山寺。この寺の仁王門に鎮座するのが、2体の金剛力士像です。

 平安時代から鎌倉時代の間に制作されたとされるこの2体の金剛力士像。800年以上の歴史を経て、“初めて”寺から一時的な“お引越し”をすることになりました。

2体の金剛力士像
2体の金剛力士像

 これまで長きにわたって清水の町を見守ってきた吽形像と阿形像。なぜ、一時的とはいえ、この場所を離れることになったのでしょうか。

檀家代表 大木徳寿さん:「今回、平成30年(2018年)、県の有形文化財に指定をいただき、やっと修復事業ができる運びになった。長い間、風雨にさらされ、本当に損傷が著しい」

難題は150mの高さからどう下ろすか

 先人たちが紡いできた歴史を、この先の未来に残していくために重要となる修復。ただ、そこには“ある難題”が待ち受けていました。

吉備文化財修復所代表 牧野隆夫さん:「普通だと、像のある所まで自動車が入れて、そこに積み込んで移動することができるが、霊山寺の場合は標高150mの高さの仁王門の中にあり、しかも門自体が重要文化財になっているため、色々制限がある。そんな中、人力で全てやっていかなければいけない」

牧野隆夫さん
牧野隆夫さん

 全国的にも珍しいという、手作業による文化財の搬出。その様子をカメラが追いました。

「腕、外しますよ」

吉備文化財修復所代表 牧野隆夫さん:「仁王さんの場合は雨風にさらされているところにあるので、その過酷な中での痛み具合は、同じ年数のもの(仏像)に比べたら酷い。これはしょうがない」

 霊山寺の金剛力士像は1本のクスノキから掘られていて、
細かく分解することはできません。外すことができる腕部分だけでも、作業には片腕で1時間以上かかります。

腕を外し
腕を外し

 9月28日から作業が始まった金剛力士像の“人力搬出作戦”。6日の作業では、阿形像の腕が外され、麓まで下ろされました。

 そして、その翌々日。

栗田麻理アナウンサー:「午前10時。たった今、多くの方の手によって吽形像が清水の地を離れていきます」

栗田麻理アナウンサー
栗田麻理アナウンサー

高さ2.2m、重さ200kg…険しい坂道を 

「ゆっくり、ゆっくり」

 足元にはゴツゴツとした岩。霊山寺から麓までは、この険しい坂道を下らなければいけません。そこで今回は、静岡市山岳連盟の協力を得て運ぶことになりました。ただ、金剛力士像は高さ2.2メートル、重さは推定で200キロ。山のプロでさえも体に堪える作業です。曲がりくねった高低差150mの坂道。その険しい道のりを金剛力士像とともに下っていきます。

静岡市山岳連盟の協力を得て
静岡市山岳連盟の協力を得て

 1時間かけてようやく1体を麓へ運び出しました。その後、休む間もなく再び山を登り、残る1体も搬出です。

重さは推定200kg
重さは推定200kg

栗田麻理アナウンサー:「無事、仁王像がお堂に下ろされました」

 作業開始から4時間。2体の金剛力士像が山を下り終えました。

150mの坂道を慎重に
150mの坂道を慎重に

静岡市山岳連盟 相談役 望月喜久治さん
Q.終わってどう?
A.「うれしい。感激。ものすごく重たかった。持った瞬間重たいなって感じた。きょうは足元が滑るのが一番怖かったけど、みなさんのチームワーク、グーです」

望月喜久治さん
望月喜久治さん

 金剛力士像がいなくなった仁王門。修復作業は埼玉県で行われ、2年後、再び清水の地に戻ってくるということです。

住職 榎本宏純さん:「これから2年間お留守になるのが少し寂しい気持ちではあるが、しっかりと私も務めさせていただき、見守っていく代わりができるよう頑張っていきたい」

榎本宏純住職
榎本宏純住職