最悪の侵略的植物が静岡県に侵入 「ほかの植物が生息できない」 静岡・清水町

 静岡県清水町を流れる、清流・柿田川。富士山周辺に降った雨や雪が豊富に湧き出ることから、「東洋一の湧水」と呼ばれ、国の天然記念物に指定されています。周辺の市や町の水源としても、なくてはならない存在です。その柿田川に、ある異変が起きていました…。

国交省沼津河川国道事務所担当者:「他の植物が生息できなくなり、取り返しがつかないことになる可能性もある」

「他の植物が生息できなくなる」

 静岡が誇る清流で、一体何が起きているのでしょうか。

「東洋一の湧水」に侵略的植物

 9月中旬、柿田川公園の駐車場に集まっていたのは、自然保護に取り組む団体や、清水町の職員、さらに川を管理している国交省の職員です。これから、“ある植物”の駆除に向かいます。

これから駆除へ

国交省沼津河川国道事務所 中田勇輝係長:「最悪の侵略植物と言われている、すごく危険な植物」

中田勇輝係長

清水町の職員:「これから行く工程の話で、この川を突っ切ります。水が湧いているところが何カ所かありますけど、砂地になっていますので、下手するとブクブクと全部沈んでしまうこともあります」

 駆除の現場に向かうのも、リスクと隣り合わせ。移動時の注意点はそれだけではありません。

柿田川みどりのトラスト 中嶋俊夫さん:「これ、ミシマバイカモ。絶滅危惧種。これを踏まないように」

中嶋俊夫さん

 県の絶滅危惧種に指定されている「ミシマバイカモ」。きれいな水でしか育たない、柿田川の象徴です。他にも、産卵のために遡上するアユや、渓流の宝石とも称される「カワセミ」といった、貴重な自然が見られます。

県の絶滅危惧種「ミシマバイカモ」

ディレクター)水が冷たいですね!
参加者)水温は年間通して15℃。胴長を着ていないと、すぐに紫色になっちゃいます。
参加者)勢いもここからは強くなります。

 そんな自然豊かな柿田川を脅かす、“最悪の侵略植物”とは。流れに逆らいながら進むと、その現場に到着しました。

国交省沼津河川事務所 中田勇輝係長:「こちらで今、ネットで流出防止対策をしていまして、ネットの内側にナガエツルノゲイトウが生えています」

ネットで流出防止対策

驚異の繁殖力「ナガエツルノゲイトウ」

 これが、地球上最悪の侵略的植物と呼ばれる「ナガエツルノゲイトウ」。南米原産の品種で、長い茎に「シロツメクサ」のような花をつける、一見どこにでも生えていそうな水草。しかし、生態系への影響が懸念されることなどから、特定外来生物に指定されています。その最大の特徴が…。

国交省沼津河川国道事務所 中田勇輝係長:「根っこが節にあり、この節の部分がどこかに流れ着いてしまうと、また増えてしまう」

「ナガエツルノゲイトウ」

 茎の切れ端さえあれば再生できる、驚異の繁殖力です。水草なのに乾燥にも強く、陸上でも海水でも生きることができます。現在確認されているのは限られた場所のみですが、全長およそ1.2キロの柿田川は、狩野川へと流れが続いています。

国交省沼津河川国道事務所 中田勇輝係長:「(絶滅危惧種の)ミシマバイカモは太陽の光が必要。他の植物が一帯に広がってしまうことで生息できなくなってしまう。この網を越えて行ってしまっただけで、狩野川で繁茂してしまうと、取り返しがつかない可能性もあるので注意して…」

狩野川で繁茂すると取り返しがつかない

3回目の駆除活動

 国交省によれば、柿田川で最初にナガエツルノゲイトウが確認されたのは去年8月。これまでに2回駆除しましたが、その後も同じ場所で繁殖が確認され、今回が3回目の駆除作業です。柿田川の現状に、外来植物の専門家は―

3回目の駆除作業

常葉大学社会環境学部 浅見佳世教授:「入ったばかりのところを運良くというか、活動されているおかげで見つかった。このタイミングを逃さずに駆除する、これが一番のポイント。一面グリーンのカーペットになると、各地で報告されています。かなりの予算をかけている県もある。滋賀県だと、平成の終わりごろに大々的な対策を始めて、(年間)3億円とか2.7億円とか億単位の予算を組んでいた。何百トンと、ごそっと取れると。あっという間にわっと広がって、広がってからではどうにもならない」

浅見佳世教授

静岡市の麻機遊水地…陸上での繁殖が判明

 県内でナガエツルノゲイトウが確認されたのは、柿田川だけではありません。

麻機遊水地保全活用推進協議会 小池祥平さん:「ここにある水面にこんもり出ているのがナガエツルノゲイトウ。5年くらい前に市民の環境保全をやっている方が初めて見つけて駆除したんですが、去年の台風15号でいっぱい入ってきちゃって、駆除が間に合わずに広がってしまった」

麻機遊水地

 静岡市葵区の麻機遊水地。およそ10メートル幅にわたって、ナガエツルノゲイトウが繁殖していました。さらに取材中、驚きの新事実が判明…!

小池さん:「うわ!上がってるじゃん! 今来て気が付いた。この辺とか、ナガエツルノゲイトウらしきものがいっぱい出ていて。水に浮いている奴だけだと思ってたけど、陸地側でも生きることができて、陸に生えちゃうと根っこが地面に入っちゃうので根絶というか駆除がすごく難しくなっちゃう。あ、やっぱそうですね、花がナガエツルノゲイトウの花が咲いているので、確定ですね」

 なんと、すでに陸上でも繁殖していたのです。

すでに陸上でも繁殖

Q.想定していました?
小池さん:「想定していなかったです…。これが向こう(陸側)に広がるとだいぶやばいですね。専門の人を呼んで勉強しないといけない」

 麻機遊水地に生息する貴重な動物や植物も、すみかを奪われる恐れが。県や静岡市も入る「保全活用推進協議会」は、定期的に駆除を行う方針です。

 ナガエツルノゲイトウに対して、最も重要なのは早期発見。国交省によれば、柿田川で繁殖が確認されたのは1カ所のみで、定期的な駆除によって、減少傾向にあるといいます。それでも、長期にわたって対策が必要な状況に変わりはありません。

国交省沼津河川国道事務所 中田勇輝係長:「生えてはしまったんですが、この場所からどこかにやらない。この場所にあるナガエツルノゲイトウも根絶に向けて今後も引き続き作業を続けていきたい」

中田勇輝係長

常葉大学社会環境学部 浅見佳世教授
「うっかりすると、(県内に)もっと多いかもしれない。広がってからだと、制御が目標になる。早期だと、駆除(根絶)も目標にすることが可能。今のうちにどんどん広報して見つける。早期発見の目を増やすことが一番重要」