本場・パリで金賞受賞…世界一のチョコは「日本の四季」を表現 ポイントはカカオの産地と温度管理 静岡・富士市 /ニュースの現場
静岡県の洋菓子店が、フランスで快挙。世界的権威のあるチョコレートのコンテストで、見事金賞に輝いたのです。
藁科雅喜さん:「普段あんまり喜怒がないけど、久しぶりにもうカーッ!とやりましたね、ガッツポーズ出ちゃいましたね」
とろけるような甘さと、ほんのりした苦みのある味わいで愛されるチョコレート。世界一のチョコとはどんなものなのでしょうか?
伊地健治アナウンサー:「富士市の閑静な住宅街です。その一角におしゃれなスイーツのお店があるのですが、実はここで作られたチョコレートがフランスで行われたコンテストで金賞をとって世界一輝いたと言うのです。そのチョコレート、いったいどんなものなのでしょうか? 行ってみましょう」
緑豊かなエントランスに、洗練されたグレーの建物。「キャトルエピス 富士店」。元々、倉庫だった建物を改装して作られた、創業19年の洋菓子店です。
お店の自慢は、毎朝作られる色鮮やかな、ケーキや、タルトです。地元の旬の食材をふんだんに使った、四季折々のスイーツ。県内産のいちじくを、たっぷりあしらった、タルトに。
イチゴやキウイ、マンゴーなどを乗せた、なめらかプリンも評判です。
女性客:「おいしくて、店内も可愛くて、いいお店だなって思います」
男性客:「プレゼントする事が多いんですけど、皆さんに喜ばれる。そしてお店の名前を言うと、“有名ですね”って言われて反響がいい」
伊地アナ「こっちがチョコレートですね、すごい。板の上に一粒ずついろんな種類のチョコレートが、ショコラって言うそうですが、並んでいます。まるで一つ、一つ宝石みたいです」
お店の一角には、 チョコレート専用のコーナーが。世界中のさまざまな産地のカカオで作られたチョコが並んでいます。
ナッツの風味と、穏やかな渋みを感じるガーナに、ベリーのようなフルーティーな酸味が特徴のマダガスカルが人気なんだそうです。
これらのお菓子を手掛けているのが、富士宮市出身のオーナーシェフ、藁科雅喜さん、52歳です。
藁科さんは10月28日に、本場フランス・パリで開催された、優れたチョコレートを選ぶコンテストで見事世界一に輝いたのです。その大会が「サロン・デュ・ショコラ」。世界最大級のチョコレートの祭典です。
そこには、世界中から集まった、一流の洋菓子職人、およそ200人が参加。藁科さんは上位14人に入り、最高評価の“金賞”を獲得したのです。
藁科さんが、チョコレート作りに目覚めたのにはあるきっかけがありました。
開店から10年が経ったころ、疲れやストレスから、仕事を休んで、フランスで1カ月間のホームステイ。その時、たまたまサロン・デュ・ショコラが開催されているのを見かけ、訪れたといいます。
藁科雅喜さん:「チョコレートを試食させてもらったり、お祭りなんで、皆さん楽しそうにしている姿を見て、もの凄く元気をもらったんですね。いつかここに仕事で戻ってこようって誓ったのが9年前でした」
おいしいチョコを食べると、人は笑顔になり、元気になる。そんな事を実感した藁科さんは、すっかりチョコレートの虜となり、一からチョコレート作りを勉強したそうです。
夢はサロン・デュ・ショコラへの出場。でも、当初、周りからは否定的な声が多かったと言います。
藁科雅喜さん:「厳しいよとか、なかなか出られないよとか、そういう答えが多かったんですけど、思い切ってある年にサロンデュショコラにメールしちゃおうと思って、メール送ったんですよ。いや~“出てください”と返信が来た」
思い切って行動する事で、憧れの舞台へ。そして、なんと挑戦2年目で金賞を獲得したのです。
“エピス・ジャポン”…4つのチョコで日本の四季を表現
伊地アナ「ずばり、作品のタイトルは?」
藁科さん「“エピス・ジャポン”という名前を付けたんですけど、日本の香り。4つのチョコで日本の四季を表しています」
日本の四季をイメージして作ったというエピス・ジャポン(日本の香り)。このチョコレートには、フランスで賞を獲得するための明確な狙いがありました。
藁科雅喜さん:「フランス料理とか、フランスの文化って料理でもそうなんですけど、割と味を足し算していく文化なんですね。例えば、バターだったり、フルーツだったり、香りをつけていくような、フランス料理の一皿ってあるじゃないですか。その一皿を一つのチョコレートにギュッって詰めてみたい」
春をイメージした「みかんいろ」というチョコの中には、静岡県産の温州みかんと、柚子のジュレが。さらに、ショウガを効かせた生チョコで2層にして、爽やかに仕上げました。
夏「かなりあいろ」は、完熟梅とジャスミンのジュレを混ぜたミルクチョコレートに。
秋は、シャインマスカットのレーズンと赤紫蘇を合わせて、深みのある赤ワインのイメージで仕上げた「べにむらさき」。
冬の「もえぎ」は、ヨモギのジュレに、イチゴとバラのエキスを使用した生チョコを合わせました。
どのチョコレートも、まるでフランス料理のように、複雑で、繊細な味に仕上げられています。
チョコレートづくりのポイントは
そんなチョコレート作りで、大切にしていたと言う、2つのポイントを教えてもらいました。
その1 カカオの産地。
伊地アナ「これはどこで採れたカカオなんですか。」
藁科さん「これはウガンダになります。特徴がないと言うか、割となだらかな香りになっていて、日本の香りと合わせて、相性がいいかなとパッって思ったのが、ウガンダのカカオでしたね」
その2 徹底した温度管理。
工房では…
藁科さん「いまもちょっとチョコレートいろいろ作業をしているんですけど」
伊地アナ「ここがチョコ作りの工房ですか。作業していらっしゃるかたがいますが、すごい、いっぱい宝石のような粒が並んでいます」
ここでは、徹底した温度管理が必要だと言います。チョコレートと生クリームを混ぜ合わせて、生チョコを作る際は…
藁科雅喜さん:「いまこちらのチョコレートが、36度~37度くらいなんですね。で、生クリームが44度なんですけど、ちょうど40度くらいになったら、2つを合わせながら、最後出来上がりの温度帯を35度以下、34とか33度くらいで仕上げるところに持っていきたいんですね」
伊地アナ「その温度が思惑通りにいかないとどうなる?」
藁科さん「なめらかさが無くなったり、分離したりとか、そういう事があったりしますね」
そのため、調理器具を使う時は…
藁科さん:「少しだけドライヤーで温めて使います」
夢の舞台に出品するチョコレート作り。緻密な計算と技術。そして繊細なセンスを研ぎ澄まし、見事、金賞に輝いたのです。
藁科雅喜さん:「普段あんまり喜怒がないけど、久しぶりにもうカーッ!とやりましたね、ガッツポーズ出ちゃいましたね。」
ちなみに、その受賞をどうやって知ったのかと言うと、突然届いた一通のメールがきっかけだったそうです。フランス語が読めない藁科さんは、スマートフォンの翻訳アプリをかざしました。すると…
藁科雅喜さん:「3行目くらいが“おめでとう”みたいな意味だと思うんけど、これしか入ってない。このおめでとうって何の意味なのかなって。皆さんに送っている“出てくれてありがとう”みたいなおめでとうの意味なのか、どういった意味のおめでとうなの」
その後、きちんとした文章のお知らせメールが届いて、受賞を理解したそうです。
金賞に輝いたチョコのお味は
では、金賞に輝いたチョコレートを特別にいただきます。まずは、温州みかんと柚子のジュレにショウガを合わせたチョコ。
伊地アナ「ドキドキします。どんなお味んんでしょうか? 中のジュレがじわっと溶けて広がって、爽やかなかんきつの香りも味も両方しますね。後からほんのりショウガを感じました。後から感じるショウガが、少しビターな感じというか、大人な感じがする。おいしいとても」
味の想像がつきませんが、ヨモギのジュレに、イチゴとバラのエキスを合わせたというチョコは?
藁科さん「ちょっと面白くないですか?」
伊地アナ「うん? 上品なバラの香りがします。だけど、イチゴの甘酸っぱさがあって、後からほんのりヨモギですね。おいしいこれ。チョコを食べているんですけど、和菓子を食べているような気分になります。これが世界一、金賞のチョコレートなんですね。生きている間に一度体験できるかどうかというチョコレートでしたけど、幸せです」
お店のチョコレートが世界一に輝いたことに、スタッフは…
女性:「本当に嬉しいし、感動したし、凄いなと思って。いろいろなことに挑戦することの大切さも教えてもらったので、いろんな部分で視野が広がったと思います」
女性:「一緒にお手伝いさせていただいたチョコレートだったので。静岡の自分の働いているお店が一番になったので、日本に広まっていったり、お店に来るお客さんも増えると思うので、すごく嬉しかったです」
伊地アナ「こういったお菓子作りを通して、藁科さんがやって行きたいことはどういう事なんですか?」
藁科さん「キャトルエピスは、お菓子を売っていますけども、元々ですね、街を少し明るくしようっていう事を僕らの役割だと思っている。静岡っていう街にたくさん、おいしいおいしいって言葉がたくさん飛び交うことが、街を元気にすることかなと思っている」
街を“おいしい”という言葉で埋め尽くしたい…。藁科さんが世界一に輝いたことで、静岡はさらに、笑顔あふれる元気な街になりそうです。