赤身は語る、脂は奏でる。奥深きマグロの世界 静岡市「南まぐろと本まぐろ 静岡本店」
マグロの味わいに違いがある——そんな当たり前のことに、改めて驚かされるのが「南まぐろと本まぐろ 静岡本店」だ。2025年5月に静岡市葵区昭府に暖簾を掲げたばかりの新店。母体となっているのは創業300年を数える老舗・福一漁業。仕入れ力は全国トップクラスだから、鮮度も味も期待を裏切らない。「南まぐろと本まぐろ贅沢食べ比べ」はその名の通り、2つのまぐろを食べ比べることができる。丼で味わうもよし、お膳で箸を進めるもよし。使われる酢飯は、静岡らしいほのかな甘みを持ち、魚の持つ個性を優しく引き出す。醤油は地元・静岡の蔵から取り寄せた一本。キレがあり、マグロの脂を凛と締める。

南マグロの赤身はしっとりとした繊維の中に、深い甘みを秘めている。脂は上品で、広がりよりも余韻で攻めてくるタイプだ。中トロは、赤身の質を引き継ぎつつ、微細なサシが舌の上でとろりととける。大トロともなればその濃密な旨みは、“赤いダイヤ”の名にふさわしい。

対して本マグロは、脂の主張が明確だ。赤身でさえどこか旨味が濃く、酸味と甘味のバランスが力強い。トロにいたっては、脂の粒子がひと粒ひと粒舌の上でほどけるような贅沢さ。マグロの“王様”とはよく言ったものだ。

そしてもう一品、注目すべきは「日替わり海鮮丼」。隣接する魚屋から毎朝届く新鮮な地魚をふんだんに使い、季節の香りとともに供される。マグロ専門店でありながらマグロ以外でも唸らせる。

「南マグロか、本マグロか」。これは、単なる食材選びではない。味の記憶にどちらを刻むかという、個人的な美意識の選択だ。もし迷ったら、どちらも味わってほしい。そして、心に残るのはどちらか。その違いこそが、食の深みである。

南まぐろと本まぐろ 静岡本店
静岡市葵区昭府1‐18‐15
TEL非公開
営 平日 11:00~15:00(L.O.14:30)
土日祝11:00~15:00(L.O.14:30)/17:00~20:00(L.O.19:30)
休 火曜日
Pあり