揚げたての美学は、音ではなく温度で決まる 静岡市「揚屋たけ」
静岡市葵区常磐町。江川町通り沿いに、木の温もりと香ばしい空気が漂う一軒がある。「揚屋たけ」。店内はカウンターが中心。1人でも気兼ねなく腰を下ろせる静かな空間に、昼は定食、夜は酒とつまみで地元客の笑顔が集まる。昼の看板は豚ロースの「とんかつ定食」。県内産の豚肉を使うのは、地元の味を信じるからこそ。パン粉は粗めで衣は薄く、揚げの技術で勝負する。油の中で100%火入れするのではなく、7〜8割で一度引き上げて、蒸らして仕上げる極上の逸品はサクリと香ばしく、肉はきめ細かくジューシー。噛み締めると脂がじわりと舌にのり、甘みと旨味が追いかけてくる。自家製のソースは甘みと酸味のバランスがよく、塩で食べれば、肉の甘さがより際立つ。ごはんは山形県産の「つや姫」。粒立ちが美しく、脂とよく馴染む。サイズは大・中・小から選べるのも気配りのひとつ。

「かつ丼」も外せない一杯だ。卵とじととんかつを別々に仕上げるという一手間が、食感を生かすためのこだわり。揚げたてのかつを丼にのせ、その上からふわりとした卵とじを重ねる。甘めのタレが全体を包み込みつつも、衣のサクサク感は失われない。ごはんの大盛りも無料で、食べ応えにも妥協がない。

ディナーメニューでおススメなのが「特上リブロースかつ」。肩に近いリブロースの部位は、赤身と脂身が層のように交互に重なり、旨味の密度が違う。とんかつ好きが必ずうなるという一枚は、ナイフではなく箸で切れるほどの柔らかさ。口に運べば、とろけるような脂が静かに広がる。

一品料理として供される「エビフライ」も見逃せない。使用するのは“フラワーエビ”。濃厚で甘みがあり、衣の中にしっかりとした存在感を持つ。自家製のタルタルソースを添えれば、酒の肴としても秀逸な一皿になる。

とんかつという料理は、派手ではないが、ごまかしも効かない。揚屋たけの一枚には、火入れの技と、素材への誠実さが宿っている。

揚屋たけ
静岡市葵区常磐町2-5-8
TEL 054-269-5015
営 火~土 11:30~13:30/17:00~21:30 L.O.
日・祝日 11:30~13:30/17:00~20:45 L.O.
※食材がなくなり次第終了
休 月曜日 ※他 月1月曜日
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