削る、溶かす、吸わせる。チーズの表情がひとつでは終わらない 浜松市「moumou」
削りたてのチーズは、音までやわらかい。薄く、軽く、空気を抱えたまま皿の上に積もっていくと、それだけで食欲の輪郭が変わる。浜松市中央区三方原町の「Cafe dining moumou」は、緑の多い店内にジャズが流れるゆったりした空気の店だ。チーズ料理を軸にしながら、ピザから天丼まで並ぶ。その幅の広さが、かえってこの店の芯をはっきりさせている。
まず目を奪うのは、「粗挽きソーセージとチョリソーのラクレットチーズ」。使うのは、芳醇な香りと濃厚な味わいが特徴のスイス産ラクレットチーズ。専用オーブンで温め、表面がとろりとゆるみ、うっすら焦げ色がついたところで準備が整う。あとは客席で、太めの粗挽きソーセージと辛みのあるチョリソーにたっぷりとかけるだけ。熱でほどけたチーズはクリーミーでなめらか。燻したような肉の風味を包みながら、塩気とコクをひと息でまとめてしまう。見せ場のある料理だが、食べた印象は意外にまっすぐだ。
けれど、この店を深く知るなら「奇跡のカルボナーラ」を外せない。使うのは、イタリア産の中太麺。“奇跡のパスタ”と呼ばれ、乾麺でありながら、もっちりしているのにコシがあるという独特の質感を持つ。ベーコンを炒め、牛乳、生クリーム、パルメザンチーズを合わせたソースを煮詰め、そこに茹で上げた麺を入れて吸わせる。表面に絡めるのではなく、麺に抱かせてとろみをつける組み立てだから、濃厚でも重たさだけが先に立たない。温泉卵を崩せば丸みが増し、追いパルメザンと黒コショウで味が締まる。たしかに濃い。それでも後口は思いのほか軽い。麺そのものの弾力が、最後まで主役の座を渡さないからだ。ランチではシーザーサラダとドリンクが付くAセットがあり、ドリンクにグラスワインまで選べるというのも、この店らしい。
「海老とアボカドのふわふわチーズのサラダ」は、温度ではなく質感で印象を残す。リトアニア産のデュガスチーズを専用ナイフで薄く削り、ふわふわのままたっぷりとかける。濃厚なのにクセのないチーズが、海老やアボカドの上に軽く積もる。ボリュームはあるのに、口に入ると重さより先にほどけ方が来る。
一方で、「海老と野菜の上天丼」は景色を変える。海老2本にキス、旬の野菜4〜5種、さらに季節の魚1種まで入る構成で、量感はしっかり。けれど、素材の味を引き立てるためにタレは薄味の甘口にしてあるという。もともと店主の両親が天ぷら店を営んでいたことから残されたメニューだけに、この一杯にはビストロの遊び心とは別の、手慣れた和の落ち着きがある。
締めに目を向けるなら、半年前にリニューアルした「モッツァレラのピッツァ マルゲリータ」もいい。イタリア産の強力粉を使った手ごね生地は、もちもちとさくさくを併せ持つ仕上がり。トマトの酸味、バジルの爽やかな香り、モッツァレラのやわらかい乳味が素直に重なり、白ワインにも合うという着地点まできれいだ。
Cafe dining moumouの面白さは、チーズを看板にしながら、そこへ寄りかかりすぎないところにある。溶かして厚みを出す皿もあれば、削って軽さをつくる皿もある。パスタには吸わせ、ピッツァでは生地と響かせる。その間に天丼が自然に並ぶから、食べ手の気分にも幅が出る。今日はワインを合わせるか、それとも昼の一皿をゆっくり楽しむか。そんな迷いごと引き受けてくれる店は、案外少ない。
Cafe dining moumou
浜松市中区三方原812-1
電話番号:053-436-8088
定休日:毎週月曜・火曜
営業時間:ランチ 11:30~14:00
デイナー水曜・木曜・日曜17:30~22:00
金曜・土曜17:30~23:00
P10台