「今まで通りの生活がしたい」熱海土石流の発災から3年8カ月でようやく故郷の伊豆山に帰還 夫婦が今思うことは… 静岡・熱海市

28人が犠牲となった熱海・伊豆山土石流災害。発災から3年9ヵ月が経つ中、ようやく故郷の伊豆山に帰還できた被災者を取材しました。
「今まで通りの生活がしたい」3ヵ月前の1月の月命日に、こう話していた被災者の太田滋さん。
きょう、太田滋さん(68)と妻のかおりさん(59)は消防に最初の通報があった午前10時28分、犠牲者に黙とうを捧げせました。
月命日には欠かさず、手を合わせている太田夫妻ですが、今回は伊豆山に帰還して初めての月命日です。
太田滋さん:
「何で戻るのに時間がかかったのかな。これから伊豆山の事にも考えていかないといけない」
太田かおりさん:
「この日を忘れないようにと思っています」
2021年7月
2021年7月、伊豆山土石流の被害を受けた旧警戒区域内にある自宅は全壊。
そのため、2021年9月から熱海市の隣にある湯河原町で(3年6か月もの間)、避難生活を送っていました。
3月20日、太田さん家族3人は冷蔵庫などを運び出し、ようやく熱海市伊豆山に戻ります。
太田かおりさん:
「やはり長かったですね。いつか必ず帰ろうと思っていたんですけど、3年くらいで帰れるのかなと思っていたので、なかなか帰れなかったと言うのはすごく寂しかった」
かおりさんは「夫と子どもたちが生まれ育った所に帰るんだ」と言うモチベーションを持ち続け、気持ちをつなげてきたと言います。
一方、夫の滋さんは・・・。
太田滋さん:
「今までの所に戻れなかったことへの後ろめたさがあります」

新居は
新築した新居は被災した自宅ではなく、数十メートル離れた旧警戒区域外の場所に一軒家を建てました。
当初は、自宅に戻ると決めていた太田夫妻でしたが・・・。
太田かおりさん:
「戻りたかったんですけど市の計画も進まない、川も上手く進まない中で、こちらから話をしても答えが返ってこない。いつになったらそこに住めるのか。分からないものですから。残りの人生をどうしようかと考えた時に、そこで足踏みをしていたら出来ることも出来なくなってしまう。思い切ってこちらに来てしまおうということで気持ち的には向こうに戻りたかった」

遅れる復旧工事
(静岡県と熱海市が行う伊豆山復興計画で)土石流で被害を受けた逢初川の河川と道路整備について、当初は2024年度末(の3月)に工事完了する予定でしたが、用地買収の遅れなどから2026年度末に延期されています。
立ち入りが制限されていた伊豆山の警戒区域解除から1年7ヵ月が経ちますが、同じ場所に戻れた被災者は23%と少なく、3月末までに25世帯52人で、未だに23世帯48人が避難生活を送っています。
一方、太田さんのように諦めて、旧警戒区域外で生活再建した被災者は85世帯127人です。
1月3日正月で帰省した太田さんの長男・樹さんは、今の故郷の姿について次のように語っていました。
太田樹さん:
「発災当時と、がれきとか無くなっていますが、ほとんど変わっていない。周りを見渡すと普通の生活を送っている家がいっぱいあって、その中にこの空間があって、異質だと。この場を離れて住んでたからこそ、より強く実感したというのが大きいですね」

3年8ヵ月でようやく帰還
発災から3年8ヵ月。
太田さん家族は、ようやく伊豆山に帰還できました。
太田滋さん:
「きょうから住むんだぞと気持ちを改めています。ほっとした気持ちもあるし、不安なこともいっぱい。今まで通り周りの方たちと上手く出来るのかどうか」
太田かおりさん:
「自分としては前に進みたい、前に進んで穏やかな暮らしを取り戻したい。私の人生を土石流でめちゃくちゃにされたと思わないように、最終的に思えるような形にしていきたい」

復旧工事は
3月末現在、熱海市が行う道路工事の用地買収は80%を超え、静岡県が行う河川工事の用地買収は63.4%です。
県と市は今年度中に用地買収の完了を目指し、現在、復旧工事が進められています。
太田かおりさん:
「今見れば変わってきている。進んでいると言えるけど。もっと早く住民と密に話をして、もっと早く進める方法はあったんじゃやないのかなと思います」
斉藤栄市長は「来年(2026)度中に工事を終え、再延長する考えがないこと」を明らかにしています。
