「能登栗」で培った技術と経験で静岡産の栗の品質向上と生産力の向上を目指す 石川県からやって来た栗農家

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秋の味覚、栗。静岡県内産の栗の出荷量は年々減少していますが、その現状を変えようと奮闘する栗農家の男性を取材しました。

 真剣な表情で栗を焼き上げる男性。

 栗農家の松尾和広さんです。

松尾和広さん
「50年後60年後でも収穫量が変わらない(栗の)木をこれから育てるのが一番のミッション」

 石川県能登町で栗農家を営んでいた松尾さんは能登半島地震で自宅と作業場を失いました。

松尾和広さん
「僕はもう一生栗農家をやるつもりでいたので、本当に予想もつかない日々を過ごしています」

春華堂のプロジェクトに参加

 19年続けた栗農家を諦めようとした松尾さんに手を差し伸べたのは、浜松市の菓子メーカー春華堂でした。

 春華堂は3年前から和栗の魅力を発信するプロジェクトを立ち上げ、和栗のブランド化や農業の持続的発展に向け、活動しています。

 「能登栗」の生産で培った技術と経験を買われた松尾さんは去年3月に家族で浜松市に引っ越し、プロジェクトの
一員となりました。

松尾和広さん
「今、自分の畑がないので毎日収穫していないという日々がすごく不思議な気分」

 10月にはフランスの生産地を視察して日本との環境の違いを学んだといいます。

春華堂のプロジェクト
春華堂のプロジェクト

掛川市の栗農家にアドバイス

 これまでと違った形で栗と携わる今、託されているのは栗の品質向上や、生産力の改善です。

 静岡県内では掛川市が有数の生産地ですが、その生産量は2004年の34トンあまりをピークに、この20年間で5分の1以下に落ち込んでいます。

 栽培方法も一因だと考える松尾さんは、県内の栗農家にコツをアドバイスする仕事も行っています。

 掛川市で栗農園を営む海野一二三さん。

 この道20年以上の海野さんも松尾さんから学ぶことは多かったといいます。

海野一二三さん
「ことしは雨が少ないなと思ったら、草を刈る高さを例えば普通だったらきれいに刈ってしまう。(松尾さんは)それをある程度の所まで残しておくような刈り方。掛川で初めてやることなんですよ」

 草を残して地面の乾燥を防ぐ。

 そうした簡単な工夫が栗の生育にもいい影響を与えるといいます。

海野一二三さん
「一つの助言とか行動でそれが少しでも(理想に)近づけるならば、これはやるべきでは」

海野一二三さん
海野一二三さん

栗の加工品づくりも

 松尾さんは栗農家にアドバイスを送る傍ら、従来の仕事も続けています。

 作っているのは、輪島にいた頃から手掛ける能登栗のペーストです。

 松尾さんはペーストのように加工品を作るなど様々な方法で栗に付加価値を生み出してきました。

 いまは春華堂と連携し流通経路を以前よりも拡大しようとしています。

松尾和広さん
「これも縁ですからね。今までの自分だったら本当にいい栗を育てて、それを最高の形で商品にできればそこがゴールというか満足だったんですけどね」

 石川県を離れて、年半あまり。

 今も、これからも栗と向き合い続けます。

松尾和広さん
「(震災があって)家族4人暮らせるんだったら、仕事なんかどうでもいいって思ったんですね。でも仕事って人生なので。何やろうって考えたときに、これだけ好きでやってきたことだから、本当はやりたいんだけど、一からどこか違う土地で19年積み上げてきたことをまた一から積み上げるというのはやっぱりきつい。(今後は)地域や日本のために。僕はとにかく栗しか知らないので」

 形が変わっても栗に賭ける人生は続きます。

松尾和広さん
松尾和広さん