天敵はイルカ…伊豆名産キンメダイ漁に同行 釣りあげると「背びれだけに」 静岡・下田市 /迷惑動物の現場(1)
真っ赤な体に、金色に輝く大きな目。伊豆の名産「キンメダイ」。なかでも静岡県の下田漁港は、キンメダイの水揚げ量日本一を誇ります。そんな特産のキンメダイを脅かす存在が、「イルカ」。知能が高く、水族館では人気者ですが、漁師にとっては天敵です。
キンメダイ漁師:「非常に困っています。年間で下手すれば、ひと月分ぐらいはイルカの食害に遭っているから。結構生活厳しいですよ」
キンメダイ漁師:「魚釣れても、全部イルカに持っていかれたりするので困っていると思います、みんな」
伊豆半島の東側・下田沖などの漁場では、1年でキンメダイ20トン以上がイルカを中心とした食害に遭い、およそ4500万円の被害が出たことも(2019年「県水産・海洋技術研究所まとめ」)。イルカによる深刻な食害に直面する、下田のキンメダイ漁に密着しました。
午前2時半ごろ…準備開始
未明、漁の準備が始まります。漁師歴13年の斎藤功さん。イルカによる漁への影響は年々ひどくなっていると話します。
キンメダイ漁師 斎藤功さん:「非常に困りますよね。何もできないというのが実情ですね」
午前3時過ぎ、出港です。船を走らせること、およそ2時間。下田沖の漁場に到着しました。
午前5時40分過ぎ…漁が始まる
日の出とともに、漁が始まります。深海魚のキンメダイが生息しているのは、水深300メートルから700メートルほど。斎藤さんは、一本釣漁法でキンメダイを狙います。一本の竿に40本の釣り針があり、エサのカツオをつけて、キンメダイが生息する深さまで糸を垂らします。
開始から20分、引き上げてみると、針にかかったキンメダイが上がってきますが…。
キンメダイ漁師 斎藤功さん:「残念でした。これだけで終わり。残念でした」
スタッフ:少ないですか?
斎藤さん:「少ないな」
エサを付け直し、再び糸を垂らします。潮の流れを考えて引き上げるのが、漁のポイントの一つだといいます。
すると、先ほどよりも多くのキンメダイが。手応えを感じながら再び漁を始めた、そのときでした。
キンメダイ漁師 斎藤功さん:「何かに一匹取られた今」
「なんだ これ」「イルカだ」
スタッフ:あっ 本当だ
斎藤さん:「なんでだよう。イルカだ、イルカ」
カメラが捉えたのは、漁船を取り囲むように泳ぐ、イルカの魚影。海面から繰り返しその姿をのぞかせます。遭遇したイルカの群れは、この船がキンメダイ漁船であることを理解しているかのように、周辺を泳ぎ続けます。
その後、糸を引き上げてみると、そこには…。
キンメダイ漁師 斎藤功さん
「これだけ残してさ、全部持っていっちゃうだよ」
これは、イルカが食べたキンメダイの残骸。針に掛かったキンメダイを、イルカが横取りするのだといいます。
スタッフ:漁に出てイルカに食べられてしまうキンメダイはどれくらい?
キンメダイ漁師 斎藤功さん:「下手したら全滅とかしちゃうと、かなりの額になる。1日ダメになっちゃうから。漁場によっては、朝、現場まで行って漁の支度してやろうとして、イルカがいたから何にもしないで帰ったりしますから。大赤字。高い燃料で大赤字」
ここで、別の漁師からの無線が…。
仲間の漁師「全滅です…」
斎藤さん:「仲間の船も全部やられたって」
なぜキンメダイが狙われる
なぜイルカはキンメダイを狙うのでしょうか。イルカの食害を研究する専門家は―
静岡県水産・海洋技術研究所 伊豆分場 高田伸二主任:「イルカの好みは分からないのですが、おそらく針に掛かったキンメダイは逃げられないので、イルカにとって食べやすいからだと思います」
イルカは漁に被害をもたらす“害獣”としての一面もありますが、駆除することはできません。
高田伸二主任:「駆除ではなく、やるのであれば漁業として行わなければいけません。漁業として行うのであれば、(水産庁に)捕獲頭数の枠をもらうこと、そして県知事等の許可を得て漁業を行うことが必要であり、すぐにできることではありません」