お寿司もカチンカチンに…港に新サービス マイナス35℃の急速冷凍で釣った魚を新鮮パック 静岡・熱海市の網代漁港

 静岡・熱海市の網代漁港で、新しく急速冷凍の技術を使ったサービスが始まりました。マイナス35℃で凍ったお寿司は、カチカチに凍っています。急速冷凍を使って、いったい何を? 県内初の新サービスに密着します!

マイナス35℃で凍ったお寿司

 今年3月に浜松市で、起業した「ゼロイチゼロ株式会社」。急速冷凍機の製造・販売をおこなう会社として、専門家と一緒にオリジナルの急速冷凍機をつくりました。販売に先駆け、もっと「急速冷凍」を身近に広めたいと始めたサービスというのが…。

「急速冷凍」

 熱海市の「網代漁港」。その敷地内で今年8月25日から始めた新サービス、「ゼロイチゼロ ステーション フィッシュ」です。釣り人が持ち込んだ魚を、刺身にするなど加工し、パッキング。マイナス35℃のアルコール液をつかって急速冷凍へ。短時間で一気に冷凍することで食材の細胞破壊をおさえて、冷凍前の「鮮度」や「味」を保つことができます。

冷凍前の「鮮度」や「味」を保つ

 サービスはイチパック1000円から。大手企業では以前から使われていた急速冷凍の技術ですが、もっと身近なものにしたいと始めました。

 新サービスを始めておよそ2カ月。朝からその様子を覗いてみると、社長自らゴミ捨てに。

ゼロイチゼロ代表 河原﨑剛さん:「準備して出来たら営業中にして、早いお客さんは8時台に来たりする」

 オープンは10時、と決めているのですが、つい心配で来てしまうそうです。現在、スタッフは河原﨑さんを含めた3人が働いています。

午前7時半

下田・東伊豆・伊東を通る国道135号沿いに

河原﨑剛さん:「両隣りに海上釣り堀がある。そこのお客さんが釣った後にうちにさばいてとか冷凍して家に送ってと」

 網代漁港では岸からの釣りを禁止していて、釣り人は海上釣り堀や、遊漁船を利用。お客さんの大半はここから流れて来るといいます。

 さらに、この場所を選んだ理由に、狙いがあるそうです。

河原﨑剛さん:「東伊豆、伊東に釣りに行った方が、帰り道に寄ってくれるという感じ」

河原﨑剛さん

 熱海市の網代漁港は国道135号線沿い。下田市からつながるルートで、車で移動する観光客が利用します。広く認知されれば、収益につながると考えています。

河原﨑剛さん:「ここは熱海・観光地ということもあって、東京、首都圏のお客様がかなり多い。7割以上が東京、神奈川」

下田市からつながるルート

この日最初のお客さんは…

 また、熱海観光のついでに網代漁港に来るお客さんも多いといいます。この日、一組目のお客さんは、東京から来たご夫婦。1時間で釣れたのはタイ2匹とアジ4匹。鯛はお刺身で急凍で…。

一組目のお客さん

 こちらでは1匹200円から魚の加工もお願いできます。担当するのは近所に住む 聞間武信さん、82歳。元魚屋。魚を扱って60年のベテランをパートで迎えました。とれたての鯛が…あっという間に刺身盛りに。

午前11時 2組目は埼玉からのお客さん

河原﨑剛さん:「お、こっちの鯛すばらしいじゃないですか、厚くて」

 釣りの成果をほめたあと、いよいよ本題に。

河原﨑剛さん:「あの、急速冷凍してご自宅まで配送という形でできるんですよ」

客:「きょう帰るから、そのまま」

 残念ながら、急速冷凍の利用はありませんでした。

Q.本当は急速冷凍のサービスを使ってほしかった?
河原﨑剛さん:「そうですね でもまあ、さばきにだけ来てくれれば…」
Q.本心は?
河原﨑剛さん:「本心は…まあ知ってもらうためのサービスなので、ここに来て話を聞いてもらえれば、急速冷凍を知ってもらうのが
一歩目なので」

2組目は埼玉から

地元水産業者の協力も

 サービスをはじめるにあたり、協力をしてくれた地元水産業者は

かね哲水産 西村潤也さん:「水産業は年々漁獲量も減って、弊社としても養殖事業を始めたりとか、いろいろな事をやっていかないとこの先厳しいだろうと。河原﨑さんの話を聞いて、こういうサービスも含めて水産業、漁協、網代の町自体の活性化や雇用につながればと」

西村潤也さん

網代港 いかだ釣りの東海代表 山本公司さん:「家で自分たちが(調理を)出来ない人が結構多い。(開業を)聞いたときは、便利だなって。(河原﨑さんの)車みたら浜松ナンバー。『え?浜松から来てんの?』『そうなんですよ』『大変じゃん』って、そんな話したんだけど協力は俺はするつもり」

山本公司さん

河原﨑剛さん:「サービス業で働いたのが、正直今まで学生の時のアルバイトぐらいしかなくて、本当に手探りですね」

 河原﨑さんが今年1月まで働いていたのは建築業界。異業種からの起業、ハードルも高そうですが…。

河原﨑剛さん:「自分も娘が来年大学 息子が今年高校に入ったし、普通だったらこんな時にと。これからお金がかかったり大変になるんじゃないかと。ただ、自分も今年48歳 年男。体力的にも大丈夫だし、一回しかない人生、何かやる時は思った時かなと」

建築業界からの転身

自宅は袋井市、営業日の4日間はホテル住まい

 第2の人生をかけて、急速冷凍の世界に飛び込んだ河原﨑さん。網代漁港で始めたのが、魚の急速冷凍サービスでした。唯一の社員の村松さんと、パートでお願いしている元魚屋の聞間さんの3人で行っています。

サービスは3人で

 正午すぎ。お客さんが落ち着く時間です。食べているのは?

河原﨑剛さん:「おにぎり。だいたいおにぎりです。コンビニの。先に買っといて、途中でやめられるのでね、お客さんが来たら」

お客さんが来たらすぐ対応できるよう、昼食は主におにぎり

 袋井市に自宅がある河原﨑さん。営業日の4日間は近くのホテルで暮らします。

Q.毎週ホテルって大変じゃないですか?
河原﨑剛さん:「大変ですね正直。最初はまあ、気楽というか、目新しい感じもありましたけども、家の方がいいですね」

営業日の4日間はホテル暮らし

無限に広がる可能性…2秒で「やる」と即断

 脱サラをして起業した河原﨑さん。高校時代のあだ名は「ぼんちゃん」。卒業後、建築の学校に入学し、その知識を学ぶと浜松市の建築会社に20年以上勤めました。

河原﨑剛さん:「急速冷凍の技術の話を聞く機会があって、急速冷凍機でこういうことができるかな、こういうことができるかなって頭の中で考えた時に、すごく無限に広がる感覚があって、2秒即決でやると決めましたね」

 家族の応援にも後押しされたという河原﨑さん。自分で始めた仕事に楽しさが止まらないそうです。

建築会社に20年以上勤めた

 午後1時すぎ。この日、3組目のお客さんです。河原﨑さんが考えた毎回行う小さなサービスが。釣果の記念撮影です。並べて撮ることが無いのでお客さんに好評なんです。

撮影も

午後3時半
河原﨑剛さん:「きょうはこれでお客さんは…一応4時過ぎまでいて、そうすると寄ってくれる人もたまにいる」

 この日は平日とあって、来店客は3組13人。休日には10組以上の人が来るそうです。でも全員が急速冷凍を依頼するわけではありません。

 急速冷凍を頼む方は4割。いまは増えてきましたね。(開業から2カ月経ち)だいぶ上がってきた利用率。

Q.商売的にはどうですか?
河原﨑剛さん:「成り立つと思います」

急速冷凍の未来は…

 いまは、急速冷凍機を身近に広める試験的な期間。さらなる展開は、自社で製作している環境に配慮した次世代の急速冷凍機の販売です。

河原﨑剛さん:「自然冷媒方式の急速冷凍機になります。一方から冷気を当てるだけだと凍結が片面だけ早く進んでしまうが、優しく乱気流することで食材が均一に凍結する」

 急速冷凍の世界に多くの可能性を感じているそうです。

河原﨑剛さん:「例えば、遠く離れた大学に行っている息子さんにお母さんが作った大好きな料理を急速冷凍機で冷凍にして送る。そういう(サービスも)目標にして頑張っている」

急速冷凍した魚

夢は…

 新米社長の河原﨑さんは、出会うことの大切さも感じています。魚を60年以上扱ってきたベテラン、聞間さんです。

河原﨑剛さん:「10時からでいいよって言っても、早く来てくれるんです。すごい心配してくれて」

聞間武信さん:「どうかなと思ってさ」

河原﨑剛さん:「魚の名前すら分からなかったから、この魚なに?って聞いて。これはどうして食べたらおいしい? これは刺身だなあって全部教えてくれる」

聞間武信さん(右)

 聞間さんに、今の仕事について聞いてみると

聞間さん:「まあいいよ。上等だ、俺らには向いてるかもしれねえ」

Q.こうやって、海を見に来ることはありますか?

河原﨑剛さん:「そうですね。仕事終わったら一回海見て帰る。この急速冷凍の技術を知ってもらうというのが本当に1歩目。達成感はこれからかなと思って頑張って続けていきたい」

 河原﨑さんの見つめる先は、遠くにあります。

河原﨑剛さん:「これは大げさかもしれないですけど、自社で作った急速冷凍機が日本にとどまらず、世界各国で使ってもらえるようやっていきたいというのが、いまの夢です」

河原﨑剛さん